P21 教育者から見る、視覚に障害がある人とない人が一緒にボランティア活動をすることの意義 筑波大学理療科教員養成施設 前施設長 宮本俊和 私は、一昨年まで筑波大学理療科教員養成施設に勤務していました。当施設は、盲学校の理療(鍼灸マッサージ)科の教員を養成する教育機関です。 学生のほとんどが視覚障害者で、卒業後は盲学校の教員になります。 1998年ながのパラリンピックの時は、そんがいの選手用トレーニング会場内に施術所を設置することが認められ、長野盲学校、 松本盲学校、長野市はり灸マッサージ師会と本施設を中心に鍼とマッサージを中心としたボランティア活動をしました。 この活動は、視覚障害者が中心に国家資格である鍼灸マッサージの免許を生かした活動でした。 ボランティアを担うスタッフも教員と開業した鍼灸マッサージ師が中心でした。 東京ニーゼロニーゼロ大会のみっつの基本コンセプトの一つは、「多様性と調和」です。 長野大会の用な視覚障害者を中心としたボランティア活動でなく、 「視覚障害がある人とない人が一緒になって行うボランティア活動」が重要だと考えました。 2018年に、東京ニーゼロニーゼロ大会のボランティアの募集が行われました。 ボランティア内容を見ると、観客サービスや競技運営のサポート、メディアのサポート、観光・交通案内などでした。 視覚障害者の専門性を生かした活動はありませんでした。 また、東京ニーゼロニーゼロ大会には、視覚障害学生がボランティア活動に参加して、多くのことを学べれば良いと考えました。 しかし、視覚障害学生が、視覚障害者にほとんど接したことのないボランティアと一緒に、 東京ニーゼロニーゼロ大会であげているボランティア活動内容を行うことができるか心配でした。 そこで、2018年9月に「視覚障害者ボランティアセミナー〜東京ニーゼロニーゼロオリンピック・パラリンピックに向けて〜」を開催しました。 多くの視覚障害者が参加し、視覚障害のある学生や教員など20名以上がボランティアとして登録しました。 つぎなる心配事は、視覚に障害がない人と一緒に持てる力を発揮してボランティア活動を行えるかどうかでした。 幸い、ボランティアサポートセンターとパラリンピックサポートセンターの皆さんが、 パラフェス2018、パラフェス2019、パラ駅伝などの実践の場を提供してくれました。 本施設学生、筑波大学附属視覚特別支援学校(盲学校)、筑波技術大学(視覚障害・聴覚障害を入学条件とする大学)の学生・生徒・教員が参加しました。 教員も2名を除き視覚障害者でした。 教育の一環として学生と教員は、ボランティア参加後に、ディスカッションをし、様々な課題を抽出し改善策を考えました。 ほとんどがリピータ-としてボランティア活動に参加しました。 視覚に障害がないボランティアとの活動を通じて様々なことがわかりました。 1)視覚障害学生の多くは、ボランティア活動をしたいが参加をためらっていました。 その理由は、「自分が参加することで他のボランティアに負担をかけるのではないか」、「視覚障害者の受け入れ態勢が整っているかどうかわからない」でした。 これらを解消すれば、ボランティア参加者は、増えると感じました。 2)視覚障害学生の中には、学校でも家庭でも、視覚障害者として接しているため、自ら声を出して障害のあることを説明することなく生活してきました。 しかし、視覚障害者とほとんど接したことのない人には、自分から発信しないと視覚障害の理解が得られないことを知りました。 見え方や見えない状態は人それぞれで、性格も違います。ボランティアをする仲間に自ら声をかけて知ってもらうことが大事だと学びました。 3)私たちは、「コロナかで、視覚障害者がスポーツ活動や運動する上で、困難なこと」を調査したところ移動に関する項目が一番多いことがわかりました。 視覚障害者は手を触れて確認することが多いので、主催者側や視覚障害がないボランティアは、 会場までの移動やトイレの移動などボランティア実施場所の安全を確保することが大切です。 また、視覚障害者に事前に位置確認をすることが重要です。 4)視覚に障害がある人とない人が一緒にボランティア活動をする上では、活動する仲間同士が持てる力を十分に発揮できる体制を作ることです。 視覚障害者からの発信とともに、視覚障害者のボランティアが活躍しているかを見届けるボランティアリーダーも必要です。 以上のように、視覚障害学生・教員はボランティア活動を通じて多くのことを学ぶことができました。 東京ニーゼロニーゼロ大会以降も、ボランティア経験を生かすことが重要です。 幸い、ボランティア経験をした理療科教員養成施設の卒業生の多くは、地域の盲学校に赴任します。 そこで、生徒にボランティアの体験を話すことにより、新たなボランティア希望者を発掘・育成し、 コミュニティで視覚障害がない人と協力してボランティア活動をする場を作ることが理想です。 そのためには、ボランティア経験者の情報ネットワークを作り、最新情報を共有しながら、ボランティアの応援体制を整えれば良いと思います。 各地のボランティア活動を集積して、ブラッシュアップすることによりボランティア活動が活性化していくと思います。 共生社会を発展する上で最も近道のような気がしています。