Column

視覚障害者が運営ボランティアに初参加
「パラ駅伝in TOKYO 2019」報告

取材・文:谷畑まゆみ/撮影:小川和行

 

3月24日、駒沢オリンピック公園にて開催されたパラスポーツイベント「パラ駅伝in TOKYO 2019」(主催:日本財団パラリンピックサポートセンター、以下パラサポ)。第4回の今年は過去最多の20チーム180名のランナーが出場し、17,500名が来場しました。

 

 

障害のあるなしにかかわらず誰もが一緒に楽しめるパラ駅伝ですが、今年新たな試みがありました。それは視覚障害のある方のボランティア参加です。ここではボラサポの取り組みと、参加した視覚障害者ボランティアの村松芳容さん、ボラサポと協力して今回の企画を進めた筑波大学理療科教員養成施設・前施設長の宮本俊和さんの談話をお伝えします。

 

視覚障害者と健常者が一緒に取り組むボランティア

 

 

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会のコンセプトのひとつに「多様性と調和」があります。そこで障害のある方々がボランティアに参加する機会をつくろうと、ボラサポではこれまで視覚障害者や聴覚障害者の方向けの大会ボランティア説明会の開催や、手話による大会ボランティア応募促進動画の作成、昨年11月に開かれた「Parafes 2018」(主催パラサポ)への視覚障害者のボランティア参加などを行ってきました。

 

今回はこれまでに得た経験をもとに、パラ駅伝での視覚障害者のボランティア参加を企画。筑波大学理療科教員養成施設、筑波大学附属視覚特別支援学校、筑波技術大学から学生や教員計14名の視覚障害の方が参加しました。

 

 

中には東京2020大会のボランティアに応募された方もいます。事前準備から当日のアテンドまで担当した、ボラサポ事業部の高橋由香さんはこう語ります。

 

「事前説明会は複数回行いました。朝到着してから解散までの流れを説明し、この日が初めてのボランティア参加という方もおられるので、当日どのように動けばいいのか、健常者ボランティアも交えてディスカッションなどもしていただきました。視覚障害をもつ方はこれまで視覚障害者以外の方との接点が少ないため、今回のボランティア参加を通じて自ら社会で積極的に声をかける体験の場にしてもらえればという期待もありました。困ったときにはボランティアリーダーなど、健常者のメンバーに気軽に声をかけてくださいとのアナウンスも行いました」

 

 

わかってもらう工夫、空間把握を支援する取り組み

 

今回、視覚障害者のボランティアの方が健常者のボランティアと一緒に担当するのは“来場者への配布物の手渡し”です。場所は会場入り口。初めての場所で少しでも不安や迷いなく活動してもらうために、これまでの知見を活かしていくつかの工夫がなされました。来場者に視覚障害があることをわかってもらうためのステッカーをビブスに貼る。健常者のボランティアの方より少し早く到着してもらい、業務を行う場所やトイレなどの施設を案内して頭の中に地図を描いてもらう時間をつくるなど、きめ細かい段取りが組まれました。

 

 

 

 

さまざまな準備を経て、いざ視覚障害者の方が健常者のボランティアと混ざり合って8つの入場レーンごとに6人一組のチームをつくると、早速打ち合わせが始まります。配布物を手で触りながら説明を受けたり、分担を相談するなどそれぞれに準備が進み、中には自分の目の見えない範囲を具体的にみなさんに説明する方の姿も。

 

 

そして、1045分に開場。一斉に観客の入場が始まりました。

 

 

最初は人が来るタイミングをうかがいながらこわごわと配布物を手渡している様子でしたが、次第に健常者と2人ひと組みのチームプレーで配布する人も出てきました。思いのほかスムーズに入場が進み、気づけばどの方もみんないい笑顔。12時になり場内では開会式が始まって、さまざまな音が響き渡る中でも、みなさんは集中して業務をこなしていきます。

 

 

 

 

12時45分には全8区のパラ駅伝がスタート。来場者の波も途切れて業務は無事に完了です。ボランティア終了後も、視覚障害のボランティアと健常者のボランティアは同じテントで昼食をとり、場内の客席に移動して一緒に駅伝を応援するなど、共にイベントを楽しみました。全ての走者がゴールしたあとはボランティアスタッフ全員でフィールドでの表彰セレモニーに参加。多くの観客が見守る中、16時少し前に約4時間のパラ駅伝がなごりおしく終了しました。

 

 

 

 

 

♦視覚障害者ボランティア  

 筑波大学理療科教員養成施設1年 村松芳容(よしひろ)さん

 

−−今回のボランティア体験で何が記憶に残りましたか?

初めてのことだらけで、時間が過ぎるのがあっという間でした。私たちがボランティアに参加できたこともうれしかったですし、“視覚障がい”のステッカーを見てなのか、肩にやさしく触れながら「ありがとうね。がんばってね」と声をかけてくださった方もいらして、新鮮な驚きと感動がありました。応募してよかったなと思えました。

今回応募したのは、純粋にボランティアをしてみたかったからです。“僕らがボランティアできるとしたらどんなことなんだろう”という疑問もありました。今日のように実際にやってみることで、自分の中で“これはできた。これは難しかった”という線引きができる経験が大切だと考えています。

 

 

−−事前説明会で疑問や不安は解消できましたか。

一番不安だったのは、質疑応答の中で健常者のボランティアの方が私たちに不安をもっているんだなということが伝わってきたことでした。確かに一緒に行動しないとわからないことって多いですよね。たとえば私は初めての場所で空間把握をするとき、「どのくらいの空間で、何がどこにあって」と説明をお願いします。野外の場合は特に、左右で異なる景色を一瞬で頭の中に描くことは難しいのです。

 

今日も最初はお客さんがどちらの方向から来てどんなふうに入っていくのか、最初は全くわかりませんでした。でも回を重ねるうちに徐々に渡す位置を工夫できたり、車いすの方が来たときにはチームの方が教えてくれて対応することができました。説明会では不安に思われていた方も、自分自身も、今日一緒に行動してお互いに「なるほど、こんなときはこうすればいいのか」とやるべきことが見えたのではないかと思っています。

 

 

−−今後につながるような経験があったのですね。

お客さんから元気をもらうという想像していなかった経験もできたので、やってみないとわからないものだなと思いました。自分の幅が広がった気がします。東京2020大会にも応募しているので、そこで今回の経験を活かすことができたらいいですね。何ができるかわかりませんが、自分ができることを精一杯やることが役目かなと思っています。

 

 

♦筑波大学理療科教員養成施設 前施設長(元教授)

宮本俊和さん

 

−−「視覚障害者のスポーツボランティア」企画の背景を教えてください。

ボランティアをしたい視覚障害の人は、実はたくさんいるんです。でもこれまでは鍼灸マッサージなど一定の範囲に限られていました。また「自分がボランティアをすると迷惑をかけるんじゃないか」と二の足を踏む人がいたり、受け入れ側にも不安があります。そんな状況を改善しようと視覚障害者のボランティア実例の取材を行い、昨年『さぁ、ボランティアしよう! 視覚障害者のスポーツボランティア』(筑波大学発行)という冊子を作ったんです。

 

冊子を盲学校に配布したりワークショップを展開する中で、ボラサポやパラサポとのつながりができました。そして今やるなら、共生社会の実現を掲げる「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」のボランティアではないかと。いくつかの経験をふまえて今回、パラ駅伝でも参加を実現することができました。

 

 

−−参加した学生のみなさんの様子はいかがでしたか?

実は配布作業にうまく混ざれない学生もいるんじゃないかと心配していたんです。でもやってみたらどのレーンでも“全員が同じように仕事をしようという配慮”が生まれていた。ひとりが実践すると周囲も自然にそれをまねる。それらが自主的にできていたことが素晴らしかったです。

 

 

−−ボランティアのみなさんの和やかな笑顔が印象的でした。

学生たちも活き活きとした表情で懸命に手を動かしていました。こんなふうにまざりあってひとつの活動を行うことに意義があるのです。視覚障害者も努力して、わからないことを伝えてみる。健常者の人も遠慮せずに、思いきって聞いてみる。それができれば、東京2020大会が終わってそれぞれのコミュニティに戻ったときにも「視覚障害の人が困ってる。声をかけよう」「健常者の人に尋ねてみよう」と思える、その一歩につながればいいなと思っています。