JOURNALジャーナル

多様な性のあり方について理解を深めよう!
もっと知りたい、LGBTQのリアル事情

Report

2021.07.16

東京2020大会には、国籍、人種、障害の有無はもちろん、性的指向においても多種多様な属性をもつ選手や関係者が来訪します。そこでボラサポでは、ボランティアに携わる皆さまに性の多様性についての理解を深めていただこうと、LGBTQの当事者から生の声をお聞きする「『プライド月間スペシャル』プライドハウス東京レガシーから生配信 もっと知りたい!LGBTQトークショー」をYouTubeで生配信いたしました。ここではLGBTQの方たちを取り巻く現状を整理しながら、配信会場となった「プライドハウス東京レガシー」がもつ影響力や当日のトークショーで浮かび上がったLGBTQの当事者が抱える課題などについてお伝えしていきます。

認知度や当事者の比率はどれくらい? LGBTQを取り巻く環境について

LGBTQとは、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時の性別とは異なる性を生きる人)のアルファベットの頭文字に、自分の性がわからない、決めたくないという意味の「クエスチョニング」、元々は軽蔑の言葉だったものを規範に沿わないなどの意味に再定義され使われている「クィア」のQを加えた、性的マイノリティの総称のひとつです。

最近でも、歌手の宇多田ヒカルさんが自分の性認識が男女のどちらにもはっきりと当てはまらない「ノンバイナリー」であることをカミングアウトしたり、東京2020大会にトランスジェンダーであることを公表する選手が参加するニュースが報じられたりと、メディアをはじめ、さまざまなところで「LGBTQ」の話題を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。

事実、電通ダイバーシティ・ラボが昨年6万人を対象に実施した「LGBTQ+調査2020」(※)によれば、LGBTという言葉の浸透率は2018年の調査から11.6ポイント上昇して80.1%となり、ほとんどの人が知っている一般的な言葉として社会に浸透していることが明らかになりました。また、LGBTQ層に該当する人の比率も8.9%と、日本にいる左利きの人とほぼ同じ割合であることがわかりました。ここ数年でLGBTQに関する情報が急激に広まり、自分の性のあり方に向き合う機会が増えたことから、その数も年々増加傾向にあるようです。

こうした時代の変化を受けて、日本でも2015年に東京の渋谷区と世田谷区で、戸籍上の同性カップルを公的に認める「同性パートナーシップ制度」がスタートしました。これは行政が同性カップルを婚姻に相当する関係と認め、独自の証明書などを発行して、行政・民間サービスや社会的配慮を受けやすくする仕組みです。6年が経過した現在では、その広がりは全国に波及し、大阪市や福岡市などの政令指定都市から人口が5万人を満たない小規模な町まで、100以上の自治体で施行されています。国会でもLGBTQの人たちへの理解を促す日本初の法案が審議されていますが(今国会では法案成立見送り)、“性的指向や性自認”(SOGI)を理由とした差別を禁じる条例やヘイトスピーチの規制など、国の制度化に先駆けて、地方自治体での法整備が活発に行われている印象です。

また、国際オリンピック委員会(IOC)が開催都市との契約に差別禁止条項を追加して、LGBTQに差別のある都市ではオリンピックを開催できなくなったことも大きな出来事です。対象となるのは2022年の冬季オリンピック以降ですが、東京2020大会でも日本の対応力が問われることから、ホストシティの東京都は2018年10月に「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」を議会にて可決施行し、LGBTQの人たちへの差別を禁止することとなりました。

※「LGBTQ+調査2020」
https://www.dentsu.co.jp/news/sp/release/2021/0408-010364.html

日本初となる常設の総合LGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」とは?

今回のトークショーの配信場所となった「プライドハウス東京レガシー」は、こうしたLGBTQを取り巻く社会の大きなうねりを象徴する、日本初の常設の総合LGBTQセンターです。

もともとプライドハウスという施設は、LGBTQに閉鎖的なスポーツの世界に性的指向や性自認を問わずあらゆる人々が安心・安全に過ごせる場所を提供し、LGBTQに関する正しい知識を発信していこうと、2010年バンクーバー冬季オリンピックから施設の運営がはじまりました。以降、ソチ五輪を除くオリンピック・パラリンピックやFIFAワールドカップといった大きな国際スポーツ大会の開催に合わせて、世界各地のNGOが設立・運営を行ってきています。

「プライドハウス東京」のプロジェクトは、2019年のラグビーワールドカップ開催や東京2020大会の開催を、世の中を変える契機ととらえ、2018年に始動しました。当初は、東京2020大会の翌年となる2021年以降に常設の施設の設立を目指していましたが、コロナ禍にこそ、どのような性的指向・性自認であっても、安心して繋がりをもてる場所が必要と判断し、予定を前倒して2020年10月11日(国際カミングアウト・デー)にプライドハウス東京レガシーを新宿にオープンさせています。

現在では、33のNPOと15の企業、21の大使館がセクターを超えて連帯。LGBTQに関する情報発信をはじめ、多様性に関するさまざまなイベントやコンテンツを提供しています。

また、プライドハウス史上初となるオリンピック・パラリンピックの公認を受けた施設であることもプライドハウス東京レガシーの特徴。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会による公認プログラムとして、「LGBTQとスポーツ・文化・教育」をテーマとした情報も企画・発信しています。オープニングには、IOCトーマス・バッハ会長からも祝辞が寄せられました。

施設内には常時数人のスタッフが常駐し、のんびり過ごす居場所としてはもちろん、気軽に誰かと語り合える交流の場としても利用することが可能。

特に施設内の中央に設置された本棚には、600冊を超えるLGBTQ関連の書籍(全体で1800冊以上)が並び、過去から現在までに至るLGBTQコミュニティの歴史とも触れ合うことができます。

 

トークショーから浮かび上がった、LGBTQ当事者を取り巻く課題

そんなプライドハウス東京レガシーで開催された「もっと知りたい! LGBTQトークショー」には、ファシリテーターとしてプライドハウス東京の代表を務める松中権さんと 時枝穂さん、鈴木茂義さん、五十嵐ゆりさん、小野アンリさんの4人が登壇してくださいました。

トークショーは、松中権さんが4人の講師にLGBTQにまつわるパーソナルストーリーをお聞きするスタイルで進行していきました。それぞれの方のお話からは、当事者ならではの悩みや葛藤がリアルに伝わってくると同時に、LGBTQの方たちが抱える課題についてもうかがい知ることができました。

トランスジェンダー女性である時枝さんが苦労したことは、仕事面、それも特に就職活動だったといいます。働く先がLGBTQにフレンドリーな企業文化であるのか、セクハラや不当な取り扱いをされないかといった職場環境の問題以前に、 面接の時点でつまずきがあったよう。

「履歴書を書く際に、どうしても性別欄のところで止まってしまうんです。なんでここで悩むんだろうって……。また、リクルートスーツもネクタイを締めて男性用のスーツを着るのは嫌だったし、かといって、いきなり女性用のスーツを着て活動するのも抵抗がありました。結局、トランスジェンダーであることで就職活動を諦め、非正規の派遣や日雇いのアルバイトといった労働条件も労働環境もよくないところで働くしかありませんでした。当時は生活のためだけに働いているだけで、自分の やりたい仕事は何一つできませんでしたね」(時枝さん)

そんな時枝さんは現在では、「LGBTQの人たちが抱えている生き辛さも含め、辛いことも楽しいこともあるのが人生だ」と思えるようになり、人生はフォーカスの当て方次第で未来をポジティブなものに変えられることを学んだといいます。

ゲイとして公立小学校で非常勤講師も務める鈴木さんのお話から見えてきたのは、自分が性的 マイノリティであることを打ち明ける「カミングアウト」の難しさです。自分の性のあり方を隠し続けることは小さな嘘を積み重ねていることと同じであり、それに対して鈴木さんは強いストレスを感じていたようです。

「日頃、教え子たちに素直であること、誠実であることの大切さを説いている自分が、ゲイであることを隠している。その事実に大きな矛盾を感じ、悩むようになりました。一方、カミングアウトをしたらしたで、子どもたちや保護者の方々から軽蔑されるかもしれない、同僚たちが離れていってしまうかもしれないという大きな不安もありました」(鈴木さん)

悩み抜いた鈴木さんは、写真でカミングアウトを応援する「OUT IN JAPAN」(http://outinjapan.com)というプロジェクトに出会ったことで、ゲイであるということを社会的にオープンにします。しかし、その際に一度、自身を安全・安全な場所に置くために、正規教員の職を辞めてしまうことにも。

「でも実際には(カミングアウトをしても)ネガティブな反応はほとんどなく、ありのままの姿で生きても大丈夫かもしれないと思えるようになりました。自分はたまたまゲイであることが人と違う個性でしたが、今後はどんな違いがあってもその人の生き方と存在が尊重される社会が実現できるように力を尽くしていきたいと考えています」(鈴木さん)

また、レズビアンである五十嵐さんが触れたのは、他人に公にしていないセクシュアリティを第三者が暴露してしまう「アウティング」の問題です。2015年に一橋大法科大学院で起きたアウティング事件は、LGBTQの人たちを取り巻く課題を改めて浮き彫りにする出来事となりました。

「誰にも話してはいけないと思っていた自分のセクシュアリティに対する違和感を、思い切ってお母さんに打ち明けたんです。すると、お母さんは『大丈夫だよ、気にしなくていいよ』と言ってくれました。ずっと悩み続けていたことだったので、『大丈夫なんだ』と思えたことは本当に嬉しくて安心できたのですが、ある日、父の書斎の本棚を見ると、性同一性障害や同性愛をテーマした本が並んでいることに気づいたんです。夫婦ですし、お母さんから伝える機会があったのかな、と思いますが、よく考えればあれはアウティングだったのかもなぁ…、と。」(五十嵐さん)

幸運にも五十嵐さんのお父さんはその事実を拒絶することなく受け入れてくれたそうですが、場合によってイジメやハラスメントにつながる深刻なトラブルに発展するケースも少なくないそうです。「他人の性的指向や性自認はとても大切で繊細な個人情報だと認識を改めてもらえれば、ベラベラ話したり、笑いやイジリのネタにできるものじゃないと気づいてもらえるはず」と、五十嵐さんはその重要性について訴えました。

自身を「ノンバイナリー(男女二元論の枠組みの外に存在すると自分を位置付ける性のあり方)、パンセクシュアル(あらゆる性のあり方の人に魅力を感じる人)」と紹介した小野さんのお話からは、性には私たちの想像以上に多様なあり方が存在することを知ることができました。

小野さんは性を規定する要素には、「性自認」「性表現」「生まれたときの性別」「性的指向」「恋愛の指向」の5つがあることを説明し、その組み合わせで性のあり方は一人ひとりが少しずつ異なっていると説明します。小野さん自身も男性か女性かという2つの性別に分けて自分を捉えるのが嫌になった結果、「私は私」と思うことが自然になったそうです。

「女であることを嫌だと思っているけど、じゃあ、男らしくしたいのかというとそうでもない。ただ、男であっても女であっても、それぞれで“らしさ”を求められることは私にとってはすごくしんどいことでした。今は、女とか男の枠ではなく、ただただ自分らしくありたいと思っています。自分は何が好きで、どうありたいのかを考えることの方が大切であることに気づいたんです」(小野さん)

こうした当事者だからこそ伝えることができる発言の内容からは、4人が真剣に向き合って悩み抜いた痕跡のようなものを感じ取ることができ、視聴している多くの人たちの心に響きました。

また、この他、「ボランティア仲間にLGBTQの当事者がいた場合はどのように接すればいいか?」「大会会場でトイレの案内をした際に、お客様の性別がわからないときはどうすればいいか?」といった大会期間中の活動の参考となるQ&Aもパネルトークの形式で議論され、約1時間半の配信時間はあっという間に過ぎて行きました。

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今回お伝えしたLGBTQを取り巻くさまざまな課題は、オリンピック・パラリンピックをきっかけに日本でも注目を集めるなど大きなムーブメントが起こりつつあります。この歩みを止めないためにも、私たち一人ひとりが当事者たちの声に思いを馳せ、自分ゴトとしてとらえることが大切といえそうです。

text by Jun Takayanagi

イベント当日の動画はこちらから!

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