Column

聴覚障害者を対象に、
東京2020大会のボランティアに関する説明会を開催

日本財団ボランティアサポートセンター(ボラサポ)は1月30日、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会ボランティアに応募した聴覚障害者を対象にしたボランティア説明会を都内で開催した。大会ボランティアの応募受付は終了したが、応募者の不安や疑問の声が少なくないことから企画された。

会場には手話通訳やヒアリングループなど情報保障環境も完備。平日夜の開催にも関わらず、高校生からシニア層まで約70名が参加、関心の高さがうかがわれた。

最初に、ボラサポの渡邉一利理事長が、この説明会は2020大会を成功に導くためのボラサポの活動の一環であり、「大会でのボランティア活動に対する皆さんの不安が解消し、逆に大きな期待を持てるような説明会になれば」と挨拶した。

 

■早瀬久美さん~得意なことを活かして活躍したい

続いて、デフリンピック自転車競技の銅メダリストで、東京2020大会ボランティアにも応募している早瀬久美さんがスポーツボランティアに関する自身の経験や期待などを話した。

まず、日本選手団主将を任された2017年のデフリンピック・サムスン大会ではボランティアについて新たな学びがあったという。元レスリング女王で、2016年のリオオリンピックで主将を務めた吉田沙保里さんからのアドバイスもあり、主将として多くの競技会場に足を運んだ。そこで、大勢のボランティアがさまざまな場面で活躍し、目立たない部分まで大会を支えていることにも気づいたという。また、本業は病院勤務の薬剤師であり、「スポーツともっと関わりたい」とドーピングの専門知識をもつスポーツファーマシストの資格も取得。専門性を活かし、日本パラリンピック委員会医科学委員も務めており、デフリンピックでは日本選手団もサポートしている。

スポーツファーマシストとしての活動はボランティアだというが、自身にとっても意味のある大切な活動であり、責任感とやりがいを持って関わっていると話した。

また、ドーピング検査場では検査担当者とデフアスリートとの会話はボランティアの手話通訳者がサポートしていたことなどを紹介。早瀬さんも、東京大会でのボランティア活動には、「聾者として、コミュニケーションの不安もある」と明かした上で、「自分の得意なことを活かして活躍したいし、そのために今後1年半、できることの引き出しや経験を増やしたい」と意気込みを語った。

 

■早瀬憲太郎さん~聾者のコミュニケーション力の高さや力を広めたい

次に登壇した早瀬憲太郎さんは早瀬久美さんの夫で、自身も自転車競技で6位入賞したデフリンピアンだ。これまでも、さまざまなボランティア経験があり、「裏方として東京大会を支えたい」と希望している。

だが、「最初はボランティアの応募をためらう思いもあった」と言う。過去のボランティア活動で不満に思うことも多かったからだ。例えば、聴者とコミュニケーションが取りにくいからと十分な情報が与えられないまま、簡単な作業しか任されないなど、「聞こえない、イコール、何もできないと思われることが一番辛かった」と話した。

だが、コミュニケーションのサポートさえあれば、聾者も十分に活躍できるとも話す。例えば、昨年夏、西日本豪雨による土砂災害で被災した広島の聴覚障害者を支援するボランティア活動に久美さんと参加した際、手話通訳者を介して聴者とも協力しあうなど効率よく作業を進め、迅速な復旧につながった事例を紹介。

憲太郎さんはまた、「聾者には相手の目を見ることで瞬発的に会話が進むという特有の力がある」と話した。「言葉が通じない経験」を日常的にしている中で、気持ちの伝え方や相手の思いを読む力などが自然と育まれているのだろうという。「外国人とも意思疎通がしやすい。そんな力もボランティアに活かしたい」

だからこそ、障害のあるボランティアの採用に積極的な東京2020大会には期待を寄せる。ボランティアとして活躍することで、「聾者にも力があることを示し、社会的な評価を上げたい。そして、レガシーとして後世につなげていきたい」と力を込めた。

 

■二宮雅也参与~多様な人々の参加で、大会を盛り上げよう

最後に、文教大学准教授で、ボラサポの二宮雅也参与が登壇した。さまざまな人がそれぞれの立場や能力を生かして活躍することは多様性(ダイバーシティ)の理解につながり、それを前提とした共生社会(インクルージョン)の構築にもつながる。

そこで、これから都市ボランティアの募集を始める都市もあるし、聖火リレーや文化プログラムなどにもボランティアの力が期待されているので、自ら応募したり、募集周知への協力も求めた。

二宮参与はまた、1月末に東京大会の大会ボランティアの愛称が「フィールドキャスト」に、都市ボランティアは「シティキャスト」に決まったことも紹介。「キャスト(配役)」という言葉には、ボランティア一人ひとりが主体的に関わり、大会成功への重要な役割を担ってほしいという願いが込められている。「ぜひ、みんなで大会を盛り上げていきましょう」と呼びかけた。

<クロストーク>
後半は、会場を含めたクロストークが行われた。二宮参与が「聾者はなぜコミュニケーション力が高いのか」と尋ね、憲太郎さんが、「聾者は手話で会話をしながら、相手の表情や反応を見て気持ちまで推し量っている」と答えるなど、聾者のコミュニケーションの取り方なども紹介された。

続いて、2017年のデフリンピック日本選手団の総監督も務められた東京聴覚障害者連盟の粟野達人会長にお話いただいた。

「コミュニケーションカード」の活用や情報保障環境を整えることで、聾者もより積極的に活動が出来るようになると粟野氏。

また、日本財団が取り組んでいるスマートフォンを使ったサポート「電話リレーサービス」も紹介された。
聾者がリアルタイムで電話を使うためのサービスで、パソコンや携帯タブレット等を使い、遠隔地にいるオペレーターが話したい相手に通訳する。

そして、この説明会のPR動画制作にも協力し、東京大会のボランティアにも応募している、デフリンピアンたちも登壇。

山田真樹選手(陸上競技)は、「デフリンピックに参加して、選手だけでなく、ボランティアも国の代表なんだと感じた。僕もボランティアに選ばれたら、チームワークよく活動したい」

また、「デフリンピックのボランティアから、『トルコという看板を背負って、外国人をサポートするんだ』という気持ちがすごく伝わってきた」と話したのは、林滉大選手(サッカー)。

さらに、 竹村徳比古選手(ビーチバレーボール)は、「デフリンピックでは、ボランティアの活躍がとても大事だと感じた。僕も頑張りたい」。

中田美緒選手(バレーボール)は、「ボランティアの支えのおかげで金メダルが取れた。今度は私自身がボランティアとして選手をサポートしたい」など、2020大会ボランティアに向けたそれぞれの思いを語った。

<会場からの主な質問や要望>
この説明会には来場者からの疑問や要望を集め、大会組織委員会に提案するという目的もあった。
大半はコミュニケーションに関するもので、二宮参与が答えた。

Q: ボランティアの研修について、聾者にはコミュニケーション方法に不安があります。例えば、採用面接では会場に手話通訳者はいますか? それとも、自分で手配したほうがいいのですか? あるいは筆談で行うのでしょうか?
A: 情報保障については、組織委員会に要望を伝えます。

Q: 研修会の内容は参加者に講義録など文字情報として配布されますか? 聴者は聞きながらメモを取れますが、聾者は手話を見ているのでメモが取れません。いつも一生懸命覚え、後でメモを取っていますが、限界があります。
A: 研修は3種類あり、1つはボランティアが一堂に会してコミュニケーションを図る研修。2つ目は配属された役割について学ぶ研修、最後は配置される場所ごとの研修です。いずれの研修でも情報保障が必要であることは組織委員会にしっかり伝えます。
また、自主学習用の教材も作成しますし、テキストの内容やロールプレーを動画で学ぶeラーニングも準備しています。聴覚障害者向けにテロップも入ります。

Q: ボランティアの研修会には手話通訳者をぜひ入れてほしいですが、それは面倒だからと、聾者が採用されにくくなるのではという不安もあります。
A: 大会には聴覚障害のある観客もたくさん訪れるでしょうし、当事者同士のコミュニケーションは必要です。多様性を認めないことは東京大会のコンセプトにも反しますから、聾者であることが不採用の理由にはならないと思います。

最後に二宮参与が、「いろいろな観点からディスカッションし、貴重な意見も聞けた。とくにコミュニケーションについての不安が強く、そうしたサポートを専門とするボランティアも必要だと感じた。組織委員会に伝え、大会では皆さんが少しでも活動しやすくなるようサポートしたいし、そうして、社会を前進させていけるよう頑張りたい」と挨拶して、説明会は終了した。

構成:星野恭子
写真:岡本寿