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報道関係者向けワークショップ
「外国人や障害者から見た日本のボランティア – 2020年オリンピック・パラリンピックに向けて- 」開催リポート

2019.01.10

ボラサポは2018124日、東京2020大会に向けたボランティア気運醸成事業の一環として、ボランティアの本質や障害者のボランティア参加についての理解促進を目的に、報道関係者を対象にしたワークショップを初めて開催しました。ボランティア経験のある外国人や障害のある人(車椅子ユーザー、視覚障害者)などの登壇者によるディスカッション形式で行われた、このワークショップの詳細リポートです。

 1.開催主旨

ボラサポの渡邉一利理事長が報道関係者向けに開催した趣旨を説明しました。
「ボラサポが目指すゴールは、ボランティア育成を通じた東京2020大会の成功と、同大会後にもスポーツボランティア文化が日本全国に定着し、継承されていくことの2つであり、その上位概念として健康長寿社会の実現と共生社会の実現があります。

 スポーツ参加には、する、見る、支えるの3つがありますが、するから見る、見るから支える、支えるからする、という循環をつくることが健康長寿社会の実現にもつながると考えます。スポーツボランティアは、支える活動の中心です。また、スポーツは世界共通の文化であり、人種や国境、宗教なども乗り越え、皆が支え合う共生社会をつくる有効なツールとしても期待されます。

そうしたことを念頭に、スポーツボランティアとはどうあるべきかなどを登壇者とともに考え、報道機関の皆さんにも広く社会に発信していただきたく、このワークショップを開催しました」 

2.話題提起

ボラサポ参与の二宮雅也氏(文教大学人間科学部人間科学科准教授/東京2020大会ボランティア検討委員会委員)が、「2020年に向けたボランティアの展望」と題して、話題を提起しました。「東京2020大会ボランティアの応募開始直前に、ボランティアに関する批判的な意見が飛び交いましたが、私はこの状況を肯定的に受け取っています。「やりがい搾取」「ブラックボランティア」といった言葉が注目されたおかげで、これまで関心がなかった人たちに、ボランティアについて考えてもらうよい機会にもなったと思っています。 

11月20日に発表された応募状況では、日本人が56%、外国籍の人が44%でした。メガスポーツイベントのボランティアの人気は世界的なものであることを示しています。12月21日の締め切りまでは、応募総数はまだ伸びるでしょう(12月27日発表現在、186,101人)。ただし、総数が多ければいいわけでなく、最終的に募集している9つの分野で必要な人数が集まるかどうかが重要です。

さて、ボラサポでは11月に、2020大会ボランティアに関する一般調査を行いました。その中で、例えば、2000人中998人(49.9%)が大会ボランティアへの参加意向があると答えています。過去に行われた東京都やメディアによる調査などと比べても非常に高い数字です。 

また、「参加にあたって期待すること」という問いでは、「自分自身の視野を広げる」「普段接しない人と触れ合える」といった答が高くなっています。欧米のボランティア調査の傾向に似ていて、『ボランティアの楽しみ方』が広がってきているように感じます。 

一方、多様性の理解促進や共生社会の実現といった2020年以降のレガシーに関わる項目についてはまだ低いようです。ボラサポをはじめ、関係各所の今後の取り組みが重要でしょう。こうした結果も踏まえ、登壇者とともに考えていきたいと思います」

 3.パネルディスカッション

二宮氏をファシリテーターに、ボランティアに関する各種の調査結果も踏まえながら、「ボランティアの多様性」というテーマで4人の登壇者と掘り下げました。二宮氏
大会ボランティアだけでなく、その後にどう残すのかというレガシーの視点も含め、議論を深めていきたいと思います。まずは、登壇者に自己紹介をお願いします。

グレッグ・マルハーン氏 (英国大使館オリンピック・パラリンピック担当参事官)
大使館職員として、東京2020大会のほか、ラグビーワールドカップの準備も担当しています。ボランティアについては若い時から高齢者施設などで経験があり、現在も国際学校の役員として実践しています。

垣内俊哉氏 (株式会社ミライロ代表取締役社長/一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会代表理事)
建物のバリアフリーに関するコンサルティングを行っていますが、日本のバリアフリーは世界でも進んでおり、今は世界一外出しやすい環境とも言えます。でも、外出しやすいのと外出したくなるのとは別。人々の対応が見て見ぬふりの無関心か、過剰でおせっかいすぎるかの二極化しているからです。今、最も重要なのは私たちの意識や行動を変えることであり、東京2020大会はそのきっかけとなる大切な機会として、ボランティアの育成や教育を通して実現していきたいと思います。

秋吉桃果氏 (筑波技術大学保健学科3年)
大学では鍼灸師の国家資格と教員免許の取得を目指し勉強しています。私自身も視覚障害者(弱視)で見えにくさはありますが、以前からボランティア活動にも積極的に参加しています。今日はそうした経験からお話しします。

尾崎ホフマン智子氏 (認定特定非営利活動法人Hands On Tokyo PR&コミュニケーション・マネージャー)
車いすテニスの国際大会「ジャパンオープン」のメディア担当ボランティアとして、長年関わっています。前職での知人の紹介がきっかけですが、日本テニス連盟の広報委員の経験も生かせればと思い、参加するようになりました。               

二宮 (以下、敬称略):ありがとうございます。マルハーンさん、平成28年の総務省による「社会生活基本調査」の中で、「過去1年間、何らかのボランティア実施経験があるか」という問いに対し、日本人は26%が「ある」と答えています。一方、同様のイギリスの調査では70%です。この差についてどう思いますか?

 

マルハーン興味深いですね。イギリスでは学校でもボランティア活動を推奨するので若い頃から実践し、社会人になっても継続する人が多いです。さまざまな分野で行われていますが、「社会に対して意味あることをしたい」「新しい技術を身につけたい」といったウェルビーイング(幸福感)の向上も目的の一つではないでしょうか。

二宮平成25年に内閣府が行った調査から、「ボランティアをする理由」について日英を比較すると、両国とも1位は、「困っている人を手助けしたい」ですが、イギリスではさらに、「地域や社会をよりよくしたい」「さまざまな人と交流したい」など、ボランティアに対する多様な価値観が見て取れます。これについてはいかがですか?

マルハーンボランティアは伝統的な活動であり、さまざまな経験ができ、視野の広がりなどが知られているからでしょう。 

二宮では、垣内さん。直近の調査で、「困っている人への意識や声掛けの実態」については、日ごろから意識し、声をかけている人が5%、多少は意識している人が36%で、合わせて41%という結果でした。でも、若い人は低い傾向です。この結果はいかがですか?

垣内声かけをしている人が4割いるのは素晴らしいことです。10年、20年前にはほとんどいませんでしたから。また、若い人が少ないことは、1回目のタイミングをどこの段階で踏むのかというだけなので問題ではありません。
ただし、国際的に比較すると、まだ少ないです。リオ大会は競技会場のバリアフリーは最悪でしたが、ボランティアだけでなく、誰もが声をかけてくれて温かい国だと思いました。一方、平昌大会ではバリアフリーは進んでいたものの、ボランティアからも声をかけられず、「バリアフリーができているから、大丈夫でしょう」という状況でした。日本も後者に近い状況ではないでしょうか。声かけの促進も大切です。

二宮声をかけない理由の1位は、「助けが必要かどうか分からない」です。改善点に関してご提言ください。 

垣内聞き方が大事で、「ご自身で移動できますか?」など、できるかできないかを尋ねたり、
「大丈夫ですか」はNGです。聞かれた人が答えやすいのは、「お手伝いできることがありますか?」。適切なコミュニケーション方法の周知が必要です。

二宮キーワードは、「何かお手伝いできますか」ですね。 では、秋吉さん、最近、視覚に障害のあるボランティアとして、イベント(パラフェス)に参加されました。障害を理由に二の足を踏む人も少なくありませんが、感想は?

秋吉「自分にできることがあればいいな」と参加しているので、私は大変だと思うことはありません。パラフェスには大学の仲間も大勢参加していましたが、ある全盲の学生は、「作業自体は自分にもできるが、作業以外の部分で周りのサポートが必要」と話していました。

二宮では、東京都のある調査によれば、障害のある人でボランティア参加経験のある人は31.5%という結果が出ています。どう思われますか?

秋吉障害者はボランティアされる側と思われがちですが、ボランティアする側にもなれます。障害があるので、これならできるかなと健常者側が決めつけるのでなく、こんな作業があるが、どの作業ならできるかと聞いてもらえると、より参加しやすいと思います。

 

二宮マルハーンさん、障害のある人のボランティア参加について、イギリスではいかがですか?

マルハーン詳しい情報は分かりませんが、2012年ロンドン大会では、社会のダイバーシティ状況をボランティア活動にも反映させることを目指しました。そのため、車いすユーザーも参加しやすいようバリアフリーバスを整備するなどの配慮を行いました。

二宮社会にある物理的なバリアの解消も参加促進には必要ですね。 垣内さん、日本ではいかがでしょう?

垣内日本では環境面のバリアフリーは進んでいますが、ボランティアに参加するには経済的、時間的な余裕がないとできません。例えば、障害のある大学生の数は今、31,000人。全体の0.98%です。まずは、障害者の教育や就労を確保した上で、余暇をどう使うか、となるものです。障害者のボランティア参加を進めるには、政府や企業が一丸となり、教育や就労を変える取り組みが必要でしょう。

二宮ベーシックな部分の整備が欠かせませんね。では、秋吉さんは、障害者のボランティア参加について、どんなビジョンをお持ちでしょう?

秋吉とても意味があると思います。障害者にとっては、自分の障害や必要なサポート、自分ができることなどを健常者に伝える機会になりますし、健常者にも障害者と関わる実践的な機会になります。

二宮相互理解を深める機会ということですね。東京大会でもさまざまな障害者に活躍してもらう予定ですが、どんなサポートがあるといいでしょうか?

秋吉視覚障害者理解として、よくアイマスク体験が行われますが、実は弱視者も多いなど視覚障害の状態はさまざまで、必要なサポートも多様です。実際に関わり、互いに知ろうとすることが大切です。

二宮障害別にカテゴライズしてしまいがちですが、もっと個別の付き合い方が大事ですね。ボランティア研修でも重要なポイントだと思います。 
では、尾崎さん。車いすテニスの大会ボランティアの経験も踏まえ、オリンピックとパラリンピックではボランティア活動に違いを教えてください。

尾崎ボランティアはボランティアであり、パラだからという意識はありません。でも、例えば、メディア担当として報道陣への対応は同じですが、選手の対応には違いがあります。パラでは選手に障害があり、その状態もそれぞれ異なるので、個別の配慮が必要になります。

 

二宮飯塚大会(※注:前述の車いすテニス大会(ジャパンオープン))は選手からの評価も高いですね。
ボランティアのホスピタリティなどはいかがでしょうか?

尾崎今年から天皇杯、皇后杯も下賜され、注目度も上がっていますが、大会のホスピタリティがよくないと、海外選手のリピート参加はありません。そういう意味で、ボランティアの力は大きいです。歴史ある大会なので、親子代々で関わるボランティアも少なくありません。

二宮東京2020大会は一発勝負。何か応用できるアドバイスはありますか?

尾崎パラリンピックについてはまだ知られていない部分も多いので、メディアの力を借りて分かりやすく伝えてもらい、大会前までにもっと競技と親しめるといいのではないでしょうか。また、ボランティアについてもあまり難しく考えず、家族で挑戦してもらえたらと思います。

 二宮日常的なレベルに落とし込めるといいですね。ありがとうございました。

 4.質疑応答

会場から質問を受けました。

Q:マルハーンさん、日英のボランティア実施率の差に驚きました。なぜ、イギリスでは70%と高いのでしょうか? また、日本での実施率を上げるために必要なことは?

マルハーンイギリス社会では歴史的に教育の中で、ボランティアは重要な活動であり、自己肯定感を得られるものだと、教えられてきました。だから、参加率も高いのでしょう。 
大会ボランティアへの応募を増やすことについてですが、日本人はイギリス人以上にオリンピック・パラリンピックへの興味が高いので、ベースはあると思います。ボランティアの条件や取り巻く環境についてもロンドン大会とほぼ同様です。ただし、課題はそれをどう伝えるかでしょう。日本でのボランティア文化の状況を踏まえた上で伝え方を工夫することが大切ではないでしょうか。

Q:垣内さん、東京大会では障害のある方がボランティアに参加すると思いますが、この経験は2020年以降の障害者の就労や意識の変化にどのような効果があると思いますか?

垣内大会ボランティアは健常者とのよい接点になる可能性はありますが、東京2020大会では気象条件や環境整備の課題などもあり、実際に参加する人はそれほど多くないように思います。でも、障害者の参加を視野に入れて大会の準備することは、2020年以降のイベントでの参加にもつながっていくと思います。

Q:秋吉さん、障害者のボランティア活動を地方にも広げるためにアドバイスをお願いします。

秋吉障害がある人でもボランティアに参加しても大丈夫という体制が整っていれば、参加しやすいです。例えば、視覚障害に対してトイレの位置などを事前に情報提供してもらえると安心できると思います。

Q:二宮先生、イギリスの教育が自己肯定感を育むというお話がありましたが、日本ではいかがですか?

二宮まだ不足している部分かと思います。小中学校で導入レベルの教育プログラムを用意し、自分の活動が社会の中でどう活きるのかといった教育を積み上げられたらよいと思います。高校では「奉仕」という課目がありますが、もう少しグローバルレベルでのボランティア教育を意識することも必要でしょう。

 5.最後に

2020年大会に向けて、パネリストそれぞれが思いを語りました。

マルハーン2020年大会は史上最高の大会になると信じています。楽しみです。

垣内報道について、お願いです。ここ数年で障害者スポーツに対する社会の関心は高まっていますが、障害者が活躍している分野はスポーツだけでなく、多様です。さまざまな側面にもスポットを当ててください。

秋吉障害の有無に関係なく、すべての人が自分の能力を発揮できる社会になってほしいですし、2020年大会が障害のある人と接するきっかけになればと願っています。

尾崎障害者にもそれぞれ個性ある人たちがいて、さまざまな分野で活躍しています。東京2020大会が、そんなことを考えるきっかけになればと思います。

二宮今日は、初めてのメディア向けワークショップとして報道の参考になればと、さまざまな視点から内容を掘り下げてみました。広げすぎて伝えきれなかった部分もあると思いますが、さらなる取材によって登壇者の考えが報道に反映されていくことを願っています。

ボラサポでは今後も継続的に活動を広げていきますし、大会成功に向けて、メディアの皆さんとの関係性ももっと深めていきたいと思っています。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。