Column

「ボランティアの本質」とは?
多角的に迫ったトークイベント

ボランティアについて考え、理解するヒントとなりそうな、『ボランティアの本質』というタイトルのトークイベントが9月、東京都内で行われた。登壇者は3名で、それぞれのボランティア経験や考え方などをもとに、「ボランティアの本質」に迫った。

ファシリテーターを務めた並河進氏は電通デジタルのクリエイティブディレクター兼コピーライターで、東京2020大会組織委員会公式ウェブサイトにも掲載されているボラサポのコンセプトムービー「#2年後の夏」の制作に関わっている。イベントの冒頭には同動画も上映され、並河氏は動画の制作意図について、「多くの人がボランティアを体験することになる2020年に向け、ボランティアの価値を向上することと、ボランティアには受け身のものというイメージがあるが、本来は自分から行う主体的なものであると伝えたかった」と説明した。

また、公益社団法人「難病の子どもとその家族へ夢を」代表、大住力氏は大学卒業後、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドに入社し、約20年間、キャストや人材教育、運営などに携わったのち退社。2010年に、難病児や家族と社会との架け橋となりたいと同法人を設立している。

ボランティアについては小学2年生のときに、「無償で奉仕する」という辞書の説明に違和感を覚えて以来、「自分には関係ない」と思っていたところ、社会人時代の経験で考えが変わり、37歳で初めてボランティアを体験。例えば、オリエンタルランドの人材育成用テキストに書かれていた「What is your mission =あなたの役割は何ですか?」という問いかけや、法人設立のきっかけとなったアメリカの難病者支援団体、「Give Kids The World」(GKTW)の創設者、ヘンリー・ランドワース氏の「Give&Takeでなく、Give&Give =生きて、分かち合うこと」といった言葉には刺激を受けたという。

もう一人、株式会社AsMama代表の甲田恵子氏は、投資会社退職後、2009年に子どもの送迎や託児などを気軽に頼り合う、「子育てシェア」を行う、AsMamaを設立。現在、給与制の正社員に加え、活動奨励金制の地域のコミュニティリーダーと、1時間500円から700円で子どもを預かる認定サポーターで運営しているという。例えば、全国に約800人いる認定サポーターの中には子どもを預かるだけではなく、自分の得意を生かし、情報発信する人やイベントを行う人など「関わり方はさまざま」と言い、「ボランティアとは、どの範囲までをいうだろう、どうしたらもっとスタッフの力を生かせるのだろう、と考える毎日」と話した。

■ボランティアは、“Pass me the salt”

トークのテーマは、「ボランティアの定義」からスタートした。並河氏が、「ボランティアは人によってイメージが異なったり、辞書でもさまざまだが、ポイントは『自発的な行為』ではないか」と問いかけると、大住氏があるエピソードを紹介した。GKTW代表のパメラ・ランドワースさんから、「ボランティアは、“pass me the salt”。食卓で、『お塩、取って』と言われたら、近くの人が塩の瓶を手渡すように、『できる人ができることをする』こと」と言われ、「目が覚めた」。ボランティアに対する自身の認識が変化したことを振り返った。

一方、学生時代はさまざまなボランティアを行っていたものの、社会人になると仕事優先となったと言う甲田氏は、現在の事業では多くの有志あるスタッフを抱えるが、「本人の得意を生かして何かをすることなのか、ある目的に向けてそれぞれの意思で関わることなのか、『自発性』のとらえ方は難しい」と話した。

■「ありがとう」が原動力

また、「ボランティアで得られること」というテーマでは、並河氏が、「ボランティアには、お金ではない価値や、関わることで生き生きできるという可能性も感じる」と話すと、大住氏がディズニー社員の守るべき3つの約束、1)ゴミを拾う、 2)写真を撮る、3)道を案内する、を例にとって話した。

この約束は義務ではなく、すべてのキャストが生き生きと自発的に動くことを目指した「ディズニーの戦略」だと話した。どれも、行うと必ず、「ありがとう」と言われる行動であり、この「ありがとう」という言葉が行動の原動力になるとした。また、「ありがとう」の言葉は、人が最も「自己有用感」を感じる言葉であり、「自分は人の役に立っていると感じると、幸せに思える。ボランティアとは、そういうことなのかなと思う」と大住氏は話した。

甲田氏は、「ボランティアは、『誰かにしてあげたい』でなく、『私は、これがしたい』という自分のためにする行動。誰かのためと思うと、『やらされ感』が生まれ、『しんどいもの』になる。でも、自分のためにやって、(目的を)達成すれば、高揚感や自己肯定感などになる。それが、ボランティアとして得られることでは」と話し、さらに、『悪天候のなか、チラシを配る』など、『作業』に注目するとやらされ感があるが、「情報が届きにくい人に伝えるための活動で、『ありがとう』につながるのだと想像できれば、やりがいになる」と答えた。

■まずは一歩、踏み出そう

最後は、「ボランティアが社会を動かす」というテーマに。大住氏は、難病の子どもたちと関るようになり、「健康」について考えるようになった。調べてみると、WHOの定義では身体的、精神的、社会的な3つの健康状態があるという。大住氏はとくに「孤独は不健康」という社会的健康に注目。「お節介と言われても、(人と人が関わり合う)社会的な健康状態をつくっていきたい」と力を込めた。

並河氏も、「お節介は大事。人の身体も血の巡りが悪くなると不健康になるように、社会にも血の巡り、つまり、人とのつながりが大切」と支持。

甲田氏はインターネット時代になり、情報発信や資金集めもしやすくなっている今、「社会とはいかなくても、自分の周囲に影響を及ぼし、動かすことは誰にでもできる時代になってきたと感じている」と言い、「自分が必要とされる、小さなニーズもたくさんある。そうして誰かを幸せにすることで、いつか自分も幸せになれる。自分には何ができるかを考え、小さなことからでも始めてみることが大切」と話した。

並河氏は、「何事も一歩を踏み出すことが大事」と答え、「最初に、『ボランティアの本質』というテーマをもらったときは難しいなと思ったが、今日はボランティアについてだけでなく、生きることについてもいろいろなヒントを伺えたように思う」と会を結んだ。

なお、このトークイベントは日本財団と渋谷区が連携し、「多様な未来を考える」をテーマに9月7日から17日にかけて開催した「ソーシャルイノベーション・ウィーク・渋谷」の一環として行われた。「思いやり」や「都市医療」、「炎上」といった約30もの分野の「本質」をそれぞれの専門家や識者が意見を交わし、来場者とともに考えるトークプログラムで、「ボランティアの本質」もその一つだった。

(文:星野恭子)