Column

アジアパラ大会を支えた、ジャカルタのボランティアたち

取材者としてパラスポーツを追いかけて10年余り。国内はもちろん、パラリンピックをはじめ、海外での大会もさまざま取材してきました。どの大会も期間中は不便さを感じたり、トラブルもありますが、帰国後の感想は「楽しかった~」となるのがお決まりです。

その最大の要因はアスリートたちのすばらしいパフォーマンスですが、もう一つ「ボランティアのサポート」によるところも大きいです。助けられたり、癒されたり、友だちになったり……。ボランティアにも、大会ごとに特徴があり、それが大会の印象となり、記憶として刻まれてきました。

10月上旬にインドネシア・ジャカルタで開かれ、私にとって15回目の海外取材となった、「第3回アジアパラ競技大会」(10月6日~13日)も例外ではありません。アジア43の国と地域から約3,000名の選手をはじめ、スタッフや報道陣、観衆たちなどが訪れ、予想していた以上に活気がありました。開幕前から準備不足も伝えられていましたが、そんな会場を整え、観客を和ませ、大会を支えたのは約8,000人のボランティアたち。また新たな記憶となりました。

 

←家族連れの姿も目立った、アジアパラ競技大会。
会場となった広い公園内の移動用に、ボランティアによる
無料カートのサービスも(写真中央)

 

↓インドネシアの文化や歴史が盛り込まれた開会式の演出。
ステージの上でも、裏側でも、大勢のボランティアが活躍。

■ありがたかった、臨機応変さ

ジャカルタのボランティアたちは、「若くて無邪気。そして、良くも悪くも真面目」が私の印象です。若者が多かったからか、アニメや俳優などを理由に日本好きな人も多く、よく話しかけられ、英語を話す人も多かったのでおしゃべりも弾みました。

 

        各競技会場に配置された、通訳ボランティアたち。
        カラフルなビブスの背にそれぞれ対応可能な言語が
        明記されている。「英語」のほか、「日本語」
           「中国語」「韓国語」「アラビア語」など、
             アジアで使われる主な言語がずらっと。

「スポーツボランティアは初挑戦」という人がほとんどで、挑戦の理由を聞くと、返ってきた答えはさまざま。「就職活動に有利だから」「経験が仕事に活かせそう」など仕事関連を筆頭に、「母国での大きなイベントに関わりたい」「(健常者の)アジア大会ボランティアに落選したから」という「参加に意義あり派」や「友だちをつくりたい」「外国の人と交流したい」という「出会い重視系」、また、「パラスポーツへの興味」「パラ大会は感動できそう」といった答えもありました。

「真面目」という印象には二面性があります。指示されたことを忠実に守ろうと、「できない」一点張りの真面目さ。逆に、私の要望に真面目に向き合い、「何とかしよう」と機転を利かせ、臨機応変に対応してくれた人も少なくなかったのです。

例えば、移動用シャトルバスは本数も少なく不便だったのですが、別のルートを調べたり、できる範囲で融通してくれました。これは、かなりレアケースですが、ある会場で次のシャトルバス出発まで待ち時間がかなりあり困っていたところ、女性ボランティアが自分の帰宅用に手配したタクシーに空席があるので、「一緒にどう?」と誘ってくれたこともありました。おしゃべりしながら、無事に移動でき助かりました。

裏を返せば、運営上に課題があったことや、ボランティア個々の裁量によるので誰に声をかけるかで結果も異なります。決してこうした対応がベストではないでしょう。ただ、「ルールはこう」と突っぱねられるよりも、サポートされる側としては誠意が感じられ、ありがたかったのが本音です。

■できることを、しっかり

障がいのあるボランティアも活躍していて、いろいろ気づきがありました。例えば、ある会場でメディア入り口が分からず、近くにいた女性ボランティアに尋ねました。英語で説明してくれましたが、少し分かりにくかったので私が復唱すると、彼女は隣りにいた男性ボランティアにインドネシア語で話しかけました。すると、その彼は私に、「ついておいで」という風に目で合図しました。

よく見ると、彼は片足に障がいがあり杖を使っていたので、私は一瞬ためらったのですが、男性が歩き出したので、後を追いました。黙々と歩く彼についてしばらく歩くと、無事に入り口に到着。私が、「テレマカシ(ありがとう)」と言うと、「サマサマ(どういたしまして)」と笑顔を返してくれました。私は、「杖を使っているから歩くのは大変そう」と勝手に思い込んだことを反省しました。

また、私たちメディアの活動拠点であるメインプレスセンターでは世界各国の報道陣を対象に、視覚障がいのある有資格者によるマッサージサービスが無料提供されていました。実は、ボランティアではなく、組織委員会が手配した契約業者によるサービスでしたが、連日大忙しの報道陣には大好評。私も2回利用し、リフレッシュできました。選手にはチーム帯同のトレーナーがいますが、メディアや観客などへのサービスに可能性を感じた事例です。

 

 

プロの手による、「マッサージサービス」は大好評。
筆者(中央)も施術の後、「サービス向上に活かしたい」と、マッサージの強さなどについて質問もされた。

 

■やりがいもさまざま

過去大会と同様、楽しそうに活動する人が多かったのですが、ちなみに、「楽しいこと」は人それぞれ。「ボランティア同士やパラアスリートなど多くの友だちができたこと」「海外の人と交流できること」や、「ボランティアにやりがいを感じたので、東京2020大会のボランティアにも応募した」という人もいました。「日本のアニメが大好きだから、日本人のあなたと、こうして話せてうれしい」と握手や写真撮影を求められたことも。

興味深かったのは、「大会前のボランティア研修がためになった」という人が何人かいたことです。パラ大会ということで、「障がいのある人への対応」が大きなウエイトを占めていたようで、「コミュニケーション方法」や「移動サポート方法」などは、「日常生活にも生かせる」と話していました。

ある人は、「障がいのある人をサポートするための心得が勉強になった」そうです。研修では、「相手のニーズを聞いて必要なサポートをすること」と教えられたそうです。例えば、車いすの人が通りかかっても、先回りして手伝うのではなく、あくまでも、「依頼をされたら対応する」。

そして、「どうしてほしいかを尋ね、その内容について真摯に対応」すればよく、逆に「勝手に気をまわし必要以上にサポートすることはかえって相手に失礼になる」と教えられたそうです。的を射た指導だと感じました。

こんな風に大勢のボランティアと交流したなかで、印象深い一人は開会式当日に陸上競技場で会ったアシヤム・ヌールさんです。選手団サポートを担う「NPC Relation」というボランティアで、彼女はカンボジア選手団を担当していました。選手団付きの通訳者と英語で会話し、要望事項などを組織委員会にインドネシア語で伝え、必要なサポートを手配するといった役割です。ジャカルタから離れたバリ島在住のヌールさんは大会期間中、チームと行動を共にするため選手村に宿泊しているということでした。

大学を卒業したばかりで、以前から福祉関係のボランティアは関わってきたものの、スポーツ分野は初めて。大会ボランティアは、今後の進路を考えるうえで、学んできた国際ビジネスの知識やスキルを活かしながら、パラスポーツも体験できる機会になると応募したそうです。

「初めての体験で戸惑うこともありますが、学ぶことも多く、とても刺激的です。この先、まだ1週間ほど活動するので、どれだけ私の“世界”が広がるのか、楽しみで仕方ありません」と笑顔で話してくれました。東京2020大会のボランティアを紹介すると、「興味はあります。でも、まずはこの大会での役目をしっかり果たしてからですね」。とても真面目なアシヤムさん、2年後の東京で再会できたら、嬉しいのですが。

 

 

さて、2020年に東京で行われるオリンピック・パラリンピック大会。11万人以上とも言われるボランティアたちは、いったいどんな記憶を残してくれるでしょう。今から楽しみです。

陸上競技場のメディア受付担当のボランティアたちと筆者(後列中央)。
適宜、交代しながら、一日中、断続的にやってくる報道陣に応対。
競技を見る時間はほとんどないらしいが、「楽しい!」と笑顔

 

文・写真:星野恭子/フリーランスライター
視覚障がいのある人をガイドする「伴走」活動をきっかけにパラスポーツに興味をもつ。2006年ころから取材をはじめ、ウェブや雑誌に寄稿中。パラリンピックは2008年北京大会から2018年平昌冬季大会まで6大会を現地取材。