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視覚障害者を対象にした東京2020大会の
ボランティアセミナー、都内で開催

東京2020大会開幕まで2年を切り、大会ボランティア8万人の応募受付も9月26日から開始されたが、前日の25日に、日本財団ボランティアサポートセンターは、筑波大学理療科教員養成施設とともに「視覚障害者ボランティアセミナー~東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて」と題したセミナーを東京都内で開催した。

東京2020大会組織委員会(以下、組織委)は多様な人々で構成されたボランティア体制を目指し、障害のある人にも積極的な参加を呼び掛けている。同セミナーは、特に視覚障害のある人が少しでも応募しやすくなるよう、活動の内容や応募方法を分かりやすく説明するとともに、来場者の疑問に応えたり、皆で課題を考えたりし、その結果を組織委への提案としてまとめることを目的に開催された。

あいにく小雨の降る中だったが、会場には視覚障害者を中心に80名を超える参加者が集まった。セミナー冒頭では、主催者である同施設の緒方昭広施設長が、「予想以上に多い参加者で、東京大会のボランティアに対する興味や関心の高さを実感している」と挨拶した。

続いて、水泳のパラリンピアンで、現在は日本スポーツ振興センターに勤務し、日本パラリンピアンズ協会会長も務める河合純一さんがセミナー企画者の一人として開催意図を説明した。河合さんは15歳で失明して以降、パラリンピックに6大会出場し、日本人最多となる21個のメダルを獲得。現役引退後はパラスポーツの普及にも取り組むなか、組織委のアスリート委員会副委員長やボランティア検討委員会委員も兼任している。

河合さんは、パラリンピックは選手にとって最高峰の舞台であるだけでなく、世界的な注目を集め、社会に多大な影響を与えるイベントでもある。ボランティアはその成功のカギを握る存在であり、「6大会に出場して、いい日も悪い日もあったが、多くのボランティアの笑顔に励まされた」と、大会ボランティアの役割を紹介。また、「ボランティアは日常生活では出会えないような人たちと同じ時間を共有し、お金では買えない体験ができる、おそらく一生に一度の機会」と加えた。

さらに、東京2020大会は、「多様性と調和」をビジョンの一つに据える。その実現にはボランティアも多様な人々で構成されるべきであり、障害のある人の参加が欠かせない。河合さんは、「パラリンピックの究極のゴールは誰もが生き生きと幸せを感じられる社会をつくること。そんな大会の運営に携わるボランティアに、ぜひ挑戦してほしい。皆で成功に向けて取り組み、成功に導けたという経験や達成感を皆で矜持したい。でも、エントリーに向けて、いろいろな疑問や質問があると思う。このセミナーでは答えられる範囲で答え、皆さんの希望が少しでも実現されるよう、僕も頑張りたい」と話し、積極的な参加を呼び掛けた。

続いて、文教大学准教授で、日本ボランティアサポートセンターの二宮雅也参与が登壇。今大会では組織委員会が募集する、8万人の大会ボランティアと、競技会場となる自治体がそれぞれ募集する「都市ボランティア」の2種類があり、それぞれ8万人、3万人の計11万人が必要であること。さらに、それぞれの活動分野や内容などについても説明した。

二宮参与はまた、ボランティアをする理由を尋ねたある調査結果として、日本では「困っている人を手助けしたい」が1位だったが、アメリカでは「地域や社会をよくしたい」、ドイツでは「新しい技術や能力、経験を身につけたい」が多いなど、「ボランティアにはさまざまな関わり方や楽しみ方がある」と紹介。「より多くの人がボランティアの可能性を理解して携わり楽しむ文化も、2020年の大会をきっかけに広がってほしい」と大会への期待感も示した。

また、東京大会には開催理由を示したビジョン「スポーツには世界と未来を変える力がある」と、3つの基本コンセプト、「すべての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)」、「一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)」、「そして、未来につなげよう(未来への継承)」がある。大会のスタッフとして圧倒的多数を占めるボランティアには、このビジョンやコンセプトを理解し、大会成功の実現に貢献することが大きな役割であると、ボランティアの心がまえについても訴えた。

さらに、「河合さんが話した、『多様性と調和』というコンセプトはボランティア活動でも適用される。多様な人々がそれぞれの強みを活かし、あるいはサポートし合いながら、活動することが期待されている。それは大会成功へのエネルギーでもあり、共生社会実現の第一歩にもなる。そのためには、ボランティア活動の環境づくりが重要」と強調した。

この後の質疑応答では会場から多くの手が挙がり、活発なやりとりが展開された。

  • Q.鍼灸・マッサージの専門資格や語学力を生かし、ボランティアとして活躍したいが、視覚障害により移動に困難がある。相談窓口などがあれば心強い。
    A.採用プロセスで行われる面談で、必要なサポートや配慮について個別に伝えることができる。また、大会期間中のトラブルなどに対応できる体制を整備するよう検討中。
  • Q.過去大会における、視覚障害者によるボランティアの事例は?
    A.車いすユーザーはチケット販売員や送迎ドライバーとして活躍した事例はあるが、視覚障害者の事例は少ない。だからこそ、今大会で日本がパイオニアとなり、新しいムーブメントのためのステップを構築することに意味がある。例えば、通訳やパソコンへのデータ入力といった役割も可能ではないか。鍼灸マッサージなどの専門技能については、選手は一般に専任トレーナーなどを帯同するので難しいかもしれないが、他に活躍できる可能性も考えたい。
  • Q.外国からの留学生で、鍼灸マッサージを学んでいる。私でも応募できのるか?
    A.外国人でも、日本での在留資格があれば応募は可能。語学力は大きな力になるでしょう。
  • Q.大会ボランティアと都市ボランティアの両方にエントリーは可能?
    A.できる。
  • Q.エントリー後、次のステップに進める選考基準は?
    A.非公表なので具体的には分からない。希望の役割を3つまで選べるが、それぞれ倍率が異なると思われるし、また、「どんな役割でもよい」という選択肢もある。また、オリンピックとパラリンピックのそれぞれにエントリーも可能。やりがいやスキルも考え、応募してほしい。
  • Q.資格を活かし、例えば、交通機関を待つ間、観戦者にクイックマッサージでおもてなししたい。
    A.いいアイデアの一つとして、組織委に提案する。
  • Q.情報提供の際は、視覚障害者にも情報を得やすい、拡大文字版やデイジー(マルチメディア)版などさまざまな形態をお願いしたい。
    A.情報保障については合理的配慮も含めたアクセシビリティのガイドラインに従って実施する方針。
  • Q.視覚障害があり、単独での行動は難しいが、チームで活動するボランティア体制なら参加しやすい。
    A.ボランティアはチームでの活動体制が基本。障害の有無や年齢など多様な人たちがチームを組み、助け合いながらよりよい活動ができれば、大会以降にも応用できるモデルになるのではと期待する。
  • Q.視覚障害者へのサポートや声かけの方法を指導する役割のボランティアもできそうだ。
    A.ボランティアの研修会で、障害当事者から学ぶ機会を設定する方針。
  • Q.観戦者に競技説明をするボランティアがいれば、観戦もより楽しめるのでは?
    A.会場での競技説明は障害のある人だけでなく、幅広い人たちにも有用。検討したい。
  • Q.視覚障害者はサポートする人と予め組んでボランティアができないか?
    A.エントリーはそれぞれ個別で行う必要があるし、チームは採用された人で構成される。チームで協力する体制を研修等で徹底させる必要がある。
    大会ボランティアとは異なり、都市ボランティアは、自治体によってはチームでの応募が可能なところもある。

質疑応答などをもとに、「組織委への3つの提案」が作成され、二宮参与が発表した。

  • 1.さまざまな障害者がボランティアに参加しやすいよう、チームとしてのボランティア体制やサポート体制を整備してほしい。(2012年ロンドン大会では、障害のあるボランティアをサポートするボランティアが配置されたという実例もある)
  • 2.鍼灸マッサージなど、専門技術や知識を持つ人が力を発揮できるような場を作ってほしい
  • 3.ボランティア研修時に、障害者に対するサポート方法を障害当事者から学ぶ機会を設けてほしい

筑波大学理療科教員養成施設では、東京2020大会のレガシーとして、視覚障害者がボランティアをすることが当たり前になり、今後の大会でも継続していくことを目指している。多様な人たちが混ざり合い、それぞれの得意なことを活かしながら、ともに目標達成を目指して協力し合うには、まず多様な人々が同じステージに上ることが第一歩になる。

前施設長の宮本俊和さんは、前例が少なく、不安な気持ちもあるだろうが、「視覚障害のある多くの方に積極的に大会ボランティアにエントリーしてほしい」と呼びかけるとともに、「必要な情報提供は今後もできる限り行っていきたい」と話し、セミナーは盛会のうちに終了した。